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名古屋簡易裁判所 昭和54年(ろ)95号 判決 1980年5月15日

主文

被告人を罰金四万円に処する。右の罰金を完納することができないときはその分について金二、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和五四年一月一三日午前零時四五分頃、愛知県公安委員会が道路標識によって最高速度を四〇キロメートル毎時と定めた名古屋市千種区萱場町三丁目三二番地付近道路において、右最高速度を超える八二キロメートル毎時の速度で普通乗用自動車を運転したものである。

(証拠の標目)《省略》

(法令の適用)

被告人の判示所為は道路交通法第二二条第一項、第四条第一項、第一一八条第一項第二号、同法施行令第一条の二に該当するところ所定刑中罰金刑を選択し、その金額の範囲内で被告人を罰金四万円に処し、右の罰金を完納することができないときは刑法第一八条によりその分について金二、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置すべく、訴訟費用については刑事訴訟法第一八条第一項本文を適用し、被告人に全部これを負担させるものとする。

(弁護人の主張に対する判断)

ところで、弁護人は本件の無人速度違反取締装置(以下、本件装置と称する)による捜査は違憲違法であるからこれによって得られた証拠により有罪の裁判をすることは憲法第三一条に違反し許されないものであるという。然しながら、(以下、弁護人主張の各論点につき)

(一)  いわゆる肖像権・表現の自由が侵害されるとする点について。

本件装置による撮影が行われるのは、もともと、現行犯に近いような場合であって、瞬時に走り去る違反車両を捕捉するための証拠保全につき緊急の必要があり、かつ、公共の福祉の見地からみて、その方法としても相当と認められるものであるから、たとえ、運転者(又は運転者と助手席の同乗者)の肖像が写真撮影されることになっても、かかる場合、かような者の肖像を撮影するだけの利益があるのであるから違法とはいえないものと考える。

(二)  本件装置による取締が法の下の平等に反するとする点について。

「法の下の平等」の原則(憲法第一四条)は、すべて国民に対する法律上の差別待遇が禁止されることを原則とする趣旨であるが、このことは、別段、捜査官憲の各種犯罪に対する捜査・検挙につき、その時期、方法などに関し一般的に形式的画一的な平等までも要求しているものではないから、具体的な犯罪捜査の場合である本件装置による速度違反の捜査の場合において、ある一つの犯罪である速度違反が検挙せられ、同じ機会に偶々これと同種の他の犯罪である速度違反が検挙を免れることがあっても、これを理由として既に検挙せられた本件のその違反者までも検挙を免れるべきだとする理由は全くない。

(三)  被告人の防禦権が不当に侵害されるとする点について。

被告人の防禦権については、現行法上、別段、犯行現場において防禦の機会が与えられることまでも保障されたものでなく、後日、警察、検察庁、あるいは裁判所における公判の段階で十分に防禦の機会を与えられればよいのであるから、本件装置を使用することによる捜査が被告人の防禦権を不当に侵害したことにはならないものと考える。

(四)  本件装置による捜査が「おとり捜査」的性格があるとする点について。

いわゆる「おとり捜査」とは、犯人発見の手段として「おとり」を使用し、この「おとり」によって犯意を誘発された者の犯罪につき行われる捜査をいうのであるが、そもそも、本件装置はこれによって態々運転者に対し速度違反を誘発奨励するというようなものではないのであるから、本件装置が捜査官憲によるアジャン・プロヴォカトゥールの役目をするようなものでは全くない。

よって、本件装置による捜査ならびにこれによって得られた証拠を使用することが憲法に反するものとは到底考えられない。なお、道路交通法第一条は単に同法の立法趣旨を包括的に宣言したものであって、別段、同法違反に対する取締につき常に公開して行うべしとか、特に指導警告を行うことを旨とすべきことを定めたものではない。

弁護人の主張は、いずれの点よりするも採用することができない。

(裁判官 中島良吉)

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